はじめに

「英語を使えるようになりたい」「英語で話せるようになりたい」という方の多くは単語レベルの語彙学習に加えて、 make a decision (決定を下す)など、複数の語を慣用的に組み合わせたチャンク( chunk )を学んでいるはずです。それが、いわば英語習得をめざす正道です。一方で、効率を重視して、限りある学習時間で最大の学習効果を得たいのであれば、もうひとつ目を向けるべき分野があります。それが、本書が取り上げている「イディオム」です。「イディオム」と言うと、 spill the beans (秘密を漏らす)のように、個々の単語の意味とは大きく異なる意味を持つ熟語が思い浮かびます。本書ではそれに加えて、いつも同じ組み合わせで使われて特定の意味を表す定形語句を総称して「イディオム」と呼ぶことにします。本書の姉妹編『英語はもっと句動詞で話そう』で扱った句動詞も含めます。

おもしろいもので、会話の記録を分析すると、 and things like that (~など、~のようなもの)といったあいまいな慣用表現が、具体的な意味を表す名詞の代わりによく使われます。実証研究からは会話の半分くらいをこの種の定型的組み合わせ、ないしイディオムが占めていることがわかっています。日本語の会話でも、話を合わせたり、調子を整えるために「そりゃそうだし…」などのあいまいな表現をよく使うのと同じです。こうした実証データから、どのような組み合わせの語句が頻繁に使われるのかもわかります。

そこで本書では、一般人、専門職(弁護士、大学教員など)の人々の会話やメディア報道で頻出する「イディオム」を抽出した研究(5ページ参照)に基づき、およそ300の頻出イディオムに焦点を絞って、その意味と例文、解説をまとめました。さらに、学習英英辞典が好んで取り上げるイディオム300も加えて紹介しました。コミュニケーションのために学ぶべき「イディオム」はこれでひとまず十分なはずです。今後の英語習得に活用してください。

本書の母体となった Advanced Learner's Dictionary of Most Frequent "Chunks" in Spoken English を著作者本人の日本語よりも上手な日本語で訳してくださったラッシャー貴子さんに、この場を借りて心よりお礼申し上げます。

2016年9月
日向清人
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