四十年に渡って路地でひたすら靴を修理し続ける一人の職人。彼のもとに、風が一枚の紙切れを運んできた。紙に書かれた「三口井一号」という文字との縁を信じた職人は、やがてその場所を捜し出す。夢を抱いて生きる主人公と路地の人々をめぐる大人の童話。
※ためし読みの色は実際の書籍とは異なります。
はじめに
「中国語で中国の小説を読んでみたい」―中国語を勉強している皆さんからよくこんな言葉を聞きます。現在、日本の中国語学習者は増加の一途をたどり、そのレベルも全体的にかなり高くなってきました。「中国人の友だちとちょっと話をしてみたい」「中国へ旅行したとき少しでも言葉が通じたら・・・」というレベルにとどまらず、中国語でさまざまな中国の本を読んでみたい、中国人のものの考え方を理解したい、と願う学習者の皆さんもかなり多くなっています。前回「中国語で短編小説を読もう!『天下無賊』」を出版したときにいただいたたくさんの感想から、学習者の皆さんの理解の深さ、学習意欲の強さを改めて感じました。それに励まされ、今回再び『天下無賊』と同じスタイルでこの本を編んでみました。
前半では、中国語の文章の下にピンインをつけました。付属のCDに入っているネイティブスピーカーによる朗読も参考にして、是非、声に出して読んでください。原文を音読することによって、その作者特有の文体や作品の持つ雰囲気を、より直接的に味わうことができます。また、読み進める上でヒントになるような語や表現は注としてあげておきました。自分で辞書を引いて調べるということは何より大切なのですが、わからない単語がたくさんある、というところでつまづかず、原文を自分の力で読み通した、という自信を持っていただきたいのです。
後半の左ページにはこの小説の原文がピンインなしで載せてあります。もちろん、始めからこのピンインなしの文を読まれてもいいのですが、ピンインを頼りに何度か読み、そのあと原文をピンインなしで読んでみるのも一つの方法です。右ページには対訳をつけました。翻訳をするときには、一つの原文に対してさまざまな訳文、さまざまな表現が考えられます。ですからこれは訳の一例と考え、自分で訳してみる、ということにも是非挑戦してください。
まず「原文で中国語の現代小説を読むなんて…」という抵抗感をなくし、自分の語学力を十二分に活用し、なによりも「読めた!」という実感と自信を持っていただきたい、それが一番の望みです。そして、これをきっかけにして、中国の小説に興味を持ち、もっと読んでみたい、と感じてくださるなら、これ以上うれしいことはありません。
最後に『靴屋と市長(原題《鞋匠与市长》)』の原作者、趙本夫氏に心よりお礼を申し上げます。
1947年,江蘇省豊県に生まれる。高等学校卒業後,豊県放送局,県委員会宣伝部で編集などに従事。1981年,処女作《卖驴》を発表,全国優秀短編小説賞を受賞。1985年から江蘇省作家協会に入会し,専業作家となる。その後,魯迅文学院,北京大学作家班で学び,1988年,南京大学を卒業。
代表作に《卖驴》《绝唱》《天地月亮地》,小説集に《塞堡》《走出蓝水河》などがあり,1998年,《赵本夫文集》4 巻が出版された。江蘇省作家協会副主席,文学雑誌《钟山》主編を歴任。
1952年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。華南師範大学日本語学科講師を経て,現在,中央大学講師,上智大学講師,大東文化大学講師。
著書に,『今日からはじめる中国語』(語研刊),『砕けた瓦』(勉誠出版刊,訳),『涸れた轍』(朝日出版社刊,訳),『中国語検定4級 合格ガイドと直前模試』『中国語検定3級 合格ガイドと直前模試』『NHKワールド・ラジオ日本 中国語リスニング』(以上,語研刊,共著),『日本語から考える! 中国語の表現』(白水社刊,共著),『中国語で短編小説を読もう! ~天下無賊~』(語研刊,共訳・解説)がある。
1959年生まれ。東京外国語大学卒業後,東京学芸大学大学院教育研究科修了。関東国際高校講師を経て,現在,日中学院専任講師,上智大学講師。
著書に,『現代中国語版 三国志演義』(NHK出版刊),『声調完全マスター』(コスモピア刊),『らくらく旅の中国語』(三修社刊),『高校生からの中国語』『学漢語』(以上,白帝社刊,共著),『中国語検定4級 合格ガイドと直前模試』『中国語検定3級 合格ガイドと直前模試』『NHKワールド・ラジオ日本 中国語リスニング』(以上,語研刊,共著),『中国語で短編小説を読もう! ~天下無賊~』(語研刊,共訳・解説)がある。