5年ぶりに故郷に帰る純朴な青年は出稼ぎ先で貯めた全財産を布袋に詰め込み、砂漠からやってきた列車に乗り込んだ。乗り合わせたカップルの泥棒、顔に刀傷を持つ男、布袋を狙う強盗。人のやさしさと人情が交錯し無垢の善意と正義が紡がれる温かい物語。
はじめに
中国語を勉強している皆さんの中には、「いつか中国語で中国の小説を読んでみたい」という希望をもっていらっしゃる方も少なくないと思われます。以前に比べて学習者も増え、また、学習者のレベルもかなり上がっているため、その希望はますます高まっているようです。その道先案内になれれば、という願いを込めて本書を編みました。
前半では、中国語の文章の下にピンインをつけました。小説は目で読むものですが、付属のCDを参考に、是非、“音読”してください。ネイティブスピーカーによる音声を聴き、そして声に出して読むことによって、中国語の音、文のリズム、この作者の小説の個性を味わっていただきたいと思います。
最初は意味がよくわからなくても、何度も読んでいるうちに意味がわかってくる、ということもあります。ちょっとわかりにくい言葉や表現には注をつけておきましたので、参考にしてください。
後半には、この小説の原文がピンインなしで載せてあります。もちろん、はじめからこのピンインなしの文を読まれてもいいのですが、ピンインに頼って何度か読んだあと原文にあたってみるのも一つの方法です。いずれにしても、原文を自分の力で読み通し、「作品を味わうことができた」という自信をつけていただきたいのです。また、日本語訳をつけておきました。翻訳にはさまざまなやり方があるわけですから、これは一例です。皆さんも自分の訳文を考えてみてはいかがでしょうか。
巻末の「作者と作品について」で作者について紹介しておきましたが、この作品は、ユーモアと人情にあふれています。そのうえ、これからどうなるのだろうか、と思わず先を読みたくなる面白さがあります。2005年のお正月映画として、中国で映画化され、それによって多くの読者を得たというのもうなずけます。
映画と小説というのは別のものではありますが、映画がきっかけとなって、その原作を読みたい、しいては中国の小説をもっと自分の力で読んでみたい、と思う人が増えていければいいなあ、と心から願っております。
最後に、《无下无贼》の作者、趙本夫氏に心よりお礼申し上げます。
1947年,江蘇省豊県に生まれる。高等学校卒業後,豊県放送局,県委員会宣伝部で編集などに従事。1981年,処女作《卖驴》を発表,全国優秀短編小説賞を受賞。1985年から江蘇省作家協会に入会し,専業作家となる。その後,魯迅文学院,北京大学作家班で学び,1988年,南京大学を卒業。
代表作に《卖驴》《绝唱》《天地月亮地》,小説集に《塞堡》《走出蓝水河》などがあり,1998年,《赵本夫文集》4巻が出版された。江蘇省作家協会副主席,文学雑誌《钟山》主編を歴任。
1952年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。華南師範大学日本語学科講師を経て,現在,中央大学講師,上智大学講師,大東文化大学講師。
著書に,『今日からはじめる中国語』(語研刊),『砕けた瓦』(勉誠出版刊,訳),『涸れた轍』(朝日出版社刊,訳),『中国語検定4級 合格ガイドと直前模試』『中国語検定3級 合格ガイドと直前模試』『NHKワールド・ラジオ日本 中国語リスニング』(以上,語研刊,共著),『日本語から考える! 中国語の表現』(白水社刊,共著),『中国語で短編小説を読もう! ~靴屋と市長~』(語研刊,共訳・解説)がある。
1959年生まれ。東京外国語大学卒業後,東京学芸大学大学院教育研究科修了。関東国際高校講師を経て,現在,日中学院専任講師,上智大学講師。
著書に,『現代中国語版 三国志演義』(NHK出版刊),『声調完全マスター』(コスモピア刊),『らくらく旅の中国語』(三修社刊),『高校生からの中国語』『学漢語』(以上,白帝社刊,共著),『中国語検定4級 合格ガイドと直前模試』『中国語検定3級 合格ガイドと直前模試』『NHKワールド・ラジオ日本 中国語リスニング』(以上,語研刊,共著),『中国語で短編小説を読もう! ~靴屋と市長~』(語研刊,共訳・解説)がある。