はじめに
今日の世界をめぐる情報通信網の発達はめざましく、私たちは衛星放送でBBC、CNN、ABCなど世界の主要英語ニュースに簡単に接することができます。またインターネット上には世界各国の新聞や雑誌の紙面が無料で提供されています。
世界各地のニュースに瞬時にしてアクセス可能な時代となり、英語の学習には申し分ない環境が整いつつあります。一般の市販教材だけで英語学習を進めている学習者は、温室で栽培されている植物と何ら変わりありません。スクスクと育ってもたくましさに欠けます。学習者のレベルなど全く考慮していない生の英語(living English)に立ち向かう体力が育たないのです。同様に、教室で学習者のレベルに合わせた話し方をするネイティブ・スピーカーの英語だけを聞いていても早口のニュース英語やアメリカ映画を聞いて理解できるようにはなれません。生の英語を理解できるようになるには、生の素材(authentic materials)自体に根気よく接し続けなければならないのです。
生の英語とは、ネイティブ・スピーカーに向かって発信された英語のことを言います。その代表が新聞、雑誌、放送ニュース、映画などで、いずれもこちらの事情に関係なく一方的に押し寄せる英語を正確にとらえ、一瞬のうちに解読する力が聴解力(listening)と読解力(reading)で、これらは発信能力(receptive skills)に分類されます。これに発信能力(productive skills)である会話力(speaking)と作文力(writing)を含めた、いわゆる言語の4技能は豊富な語彙力(vocabulary)と正しい文法の理解(誤文識別力と造文能力)が前提となります。この2つの前提条件を無視して実用に役立つ語学力を身につけようとしても無理です。リスニングの特訓を重ね、音声的な聞き分けの力をいくら高めても、未知の語彙は永遠に理解できるようにはなりません。文脈(context)から意味を推測しようにも、十分な語彙力がなければ文脈ですら把握できずに終わってしまいます。語彙力が足りないまま、無理して難解な英文を読んだり聞いたりしてもやる気を失い、学習意欲は低下してしまいます。
本書は、新聞、雑誌、放送ニュースの頻出語彙を学習することで基本的な語彙力を強化し、英語の基礎体力づくりに役立てるための教材です。学習目標はニュース英語の理解に必須の4,000語を習得することに設定してあります。ただ、ニュース英語にはいろいろな分野(トピック)があり、どの分野のニュースに関心を持つかは人それぞれ大きく異なります。本書はそのような個人差に配慮し、4,000語強を分野別にまとめてあります。
生の教材とは、学習者が自由に選択できるものです。本書を活用しながら、気軽に多くの生の教材と取り組み、接してください。不足を感じればどんどん書き込みをして、本書を進化させてください。そして読者の英語力の一部として、体の一部のようなものにしていただければ幸いです。
最後に、本書の企画および構成、データ処理などでご示唆いただいた(株)語研の奥村民夫氏と、本書の発案に至るまで私にさまざまな質問やコメントなどのフィードバックを通じてインスピレーションを与えてくれた同僚や学生、読者に心よりお礼申し上げます。読者の方々の英語習得の成功を心よりお祈りいたします。
小林敏彦
国立大学法人小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻(専門職大学院ビジネススクール,OBS: Otaru Business School)教授。グローカル戦略推進センターグローカル教育副部門長。3M(Media, Movie, Music)を活用した「わかりやすく(Clear),おもしろく(Interesting),ためになる(Practical)授業」を心がけている。
1988年,小樽商科大学商学部商学科経営法学コース卒(大谷良雄ゼミ:国際法専攻),ハワイ大学マノア校(UHM)大学院英語教育研究科修了(MA in ESL),ハワイ州会議通訳者免状(同時・逐次)4種全取得。ハワイ大学日本語講師。現在,コバ英語ジム(KEG: KOBA English Gym),口語英文法研究会(CEG: Colloquial English Grammar Circle)主催。日本言語学会(LSJ),大学英語教育学会(JACET),映画英語教育学会(ATEM),日本メディア英語学会(JAMES)会員。
著書に『ニュース英語パワーボキャビル4000語』『ニュース英語究極単語10000』『3パターンで決める日常英会話ネイティブ表現』(語研),『外国人の先生と話そう』(大修館書店),『私たちの地球と健康』(成美堂),『英語リスニング教材開発の理論と実践』(小樽商科大学出版会)など多数。