完全マスター英文法
完全マスター英文法ISBN9784876151929
定価:本体 2,600円+税(税込定価: 2,860円)
ISBN978-4-87615-192-9
判型:四六判 768ページ
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2009年6月10日:発売
2021年9月24日:第6刷
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社会人のための実践的な英文法
本書は日本語を母語とする学習者が英語の習得を試みる場合に障害となってくるポイント(日本語と英語とのズレ)にフォーカスしています。日本語母語者は必然的に自らの膨大な言語経験である「日本語の常識」を無意識に当てはめてしまいがちです。それらの問題点を効率よく克服しつつ,自然で本格的な英語の習得ができることが本書の狙いです。豊富に収録された例文によって,日常のコミュニケーションに不可欠な文法・語法を理解し,英語の語感を養うことができます。また,スピーキングの習得作業としてバラエティーある英語表現やセンテンスパターンを脳にインテイクしていくことでライティングスキルもパラレルに伸ばしていくことをめざします。
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はじめに

 私がジョーデン博士の日本語のテキストに初めて出会ったのは,1991 年夏の コーネル大学での日本語教授法のワークショップに参加したときでした。私は そのテキストの内容を細かく知れば知るほど,その素晴らしさに驚嘆を禁じ得ず, 翌年に著者本人であるジョーデン博士にお会いするため,博士がオーガナイズし ているブリンマー大学での2か月間の日本語教授法のワークショップに参加する ことにしました。

 私は今でもご高齢のジョーデン博士が車イスで教壇に登壇され,初めてお会 いしたときの情景をハッキリ思い出すことができます。博士の講義もやはり博士 の日本語のテキストのように,一切の妥協のない言語教育への至誠の態度で貫か れていました。博士の日本語教育の方向性は一貫しています。それは日本語学習 者に,いかに効率よくより大きな付加価値をつけるのか,つまり,いかに日本語 学習者に,より自然な日本語を効率よく習得させるのかという点にフォーカスさ れています。

 その後,私は博士のテキストで実際にアメリカでの日本語教育に携わること になりますが,それは正に,そのテキストが自然な日本語の4スキルの習得に関 して最高度に完成されたものであると実感させられる日々となりました。

 日本の英語教育界にもジョーデン博士のテキストのような英語のテキストが あれば,と私が考えるようになったのは自然の流れでした。周知のように,大変 な英語ブームの中にあって,日本語母語者の英語力は世界ランキングで最低レベ ルのままです。特にアクティブスキルであるスピーキングやライティングは非常 に問題があります。そして 1999 年にこの英語のテキストを書き始めたわけです が,正直こんなに時間のかかる大変なものだとは思ってもいませんでした。本来 怠け者である私をここまで引っ張ってきたのは,正にジョーデンスピリットだと いうほかないと私は思っています。

 最後に,この場を借りてこのテキスト製作に直接・間接に貢献してくださっ た方々や参考書に感謝を述べたいと思います。その中で特に,コーネル大学のロ バート・スークル先生。先生は私がジョーデン博士を知るきっかけとなった博士 のお弟子さんです。青山学院大学のトレント信子先生。この本の内容のチェック や多くの有益な助言をしてくださいました。The Grammar Book の Marianne Celce-Murcia & Diane Larsen-Freeman の両著者。英語の「習得のためのグラ マー」に関して,多くの新しい視点を教えてもらいました。そして,(株)語研 編集部の島袋一郎氏。長期間に渡り大変な量のテキストの細かいチェック,非常 に有益な多くのサジェスチョンをしてくださいました。心より感謝いたします。

 2009 年 4 月
米原幸大
はじめに
iii
アイビーリーグ・イングリッシュによる 習得メソッドについて
x
習得プラクティスの方法
xiv
1章 発音とイントネーション
Part 1 発音
1.英語の母音
3
2.英語の子音
6
Part 2 アクセントとイントネーション
3.アクセント
13
4.リズム
14
5.トーンのパターン
15
6.センテンスの強勢のパターン
16
2章 文の要素
7.
20
8.名詞を中心とした主語の構造
21
9.動詞を中心とした述語の構造
23
10.その他の文の要素
31
11.品詞のまとめ
36
12.機能上の文の種類
36
13.直説法と仮定法
37
3章 名詞[名詞①]
Part 1 冠詞と名詞の関係
14.5種類の冠詞
42
15.冠詞の種類の選択
43
Part 2 名詞の種類
16.普通名詞とその総称用法
48
17.普通名詞の非総称用法
50
18.普通名詞から他の種類の名詞への転用
52
19.集合名詞
53
20.物質名詞
56
21.抽象名詞
58
22.固有名詞
64
Part 3 名詞の数
23.単・複同形の名詞
68
24.常に複数形の名詞
69
25.その他の複数形名詞の注意
70
Part 4 名詞の格,その他
26.名詞の所有格
74
27.名詞の目的格
77
28.名詞の同格
78
29.名詞の性
79
30.名詞の合成語のパターン
82
応用練習
83
4章 代名詞[名詞②]
Part 1 人称代名詞
31.人称代名詞の一般論
94
32.we,you,they が‘ 人々一般’を指す用法
97
33.it の用法
99
34.所有代名詞
103
35.再帰代名詞
104
Part 2 指示代名詞
36.this,that,these,those
107
37.so の代名詞的用法
108
38.same
110
Part 3 不定代名詞
39.one
112
40.none,all
113
41.each,every
115
42.either,neither
117
43.other,another
118
44.some/any/every/no + body/one/thing
120
応用練習
122
5章 形容詞[形容詞①]
45.形容詞の概略
128
Part 1 形容詞の限定用法と叙述用法
46.限定用法の概観
130
47.形容詞と名詞の順
131
48.叙述用法でS+V+C のパターン
134
49.叙述用法でS+V+O+C のパターン
135
50.限定用法か叙述用法しかない形容詞
136
51.限定用法と叙述用法で意味の異なる形容詞
138
Part 2 形容詞のその他の注意点
52.[主語+ be 動詞+形容詞+不定詞]
139
53.不定詞,動名詞の両方をとれる形容詞
140
54.形容詞の名詞的用法
141
55.形容詞の副詞的用法
142
56.感情を表す形容詞
143
57.他動詞からの分詞において,動詞か形容詞かの区別のしかた
148
58.自動詞からの形容詞(限定用法)
149
59.old ↔ young などの対極同士にある形容詞
150
60.形容詞のその他の注意
151
応用練習
155
6章 限定詞[形容詞②]
61.限定詞の概観
164
Part 1 3種類の限定詞
62.前限定詞
165
63.核限定詞
166
64.後限定詞
167
Part 2 個々の数量詞
65.many とmuch
169
66.few とlittle
171
67.some とany
172
68.数詞の注意点
175
69.数量詞に関してのその他
178
Part 3 冠詞
70.不定冠詞a の注意すべき用法
181
71.定冠詞the の注意すべき用法
183
72.冠詞をとらない場合
186
73.冠詞がオプショナルのケース
191
74.冠詞の省略またはオプショナルのその他のケース
193
応用練習
194
7章 副詞
Part 1 副詞の分類
75.副詞の役割
202
76.他の品詞から転用・派生した副詞の語形
205
77.副詞の位置の目安
208
78.副詞の意味上からの分類
214
Part 2 主要な副詞,その他
79.ago とbefore
217
80.since,already,yet,still
218
81.very,much
220
82.well
222
83.quite,fairly,rather
223
84.ever
224
85.far
225
86.right
226
87.enough
226
88.副詞句の有用表現・慣用表現
227
応用練習
228
8章 動詞
Part 1 動詞の5種類の文型
89.動詞の文型の概観と特殊型
238
90.第1文型:S+V(完全自動詞)
242
91.第2文型:S+V+C(不完全自動詞)
243
92.第3文型:S+V+O(完全他動詞)
248
93.第4文型:S+V+IO+DO(完全他動詞)
253
94.第5文型:S+V+O+C(不完全他動詞)
257
95.have,make,get,let と知覚動詞
258
96.2次的な述語
261
Part 2 主要動詞
97.基本動詞be,have,do の注意点
263
98.主要動詞を使ったイディオムと無生物主語をとる動詞
266
Part 3 群動詞
99.群動詞とは
274
100.自動詞と他動詞の群動詞
275
101.群動詞+前置詞
276
102.群動詞と直接目的語の位置
276
103.[動詞+副詞]vs.[動詞+前置詞]
277
104.群動詞の種類
278
応用練習
281
9章 法助動詞と法助動詞句[助動詞①] 
105.法助動詞(句)の概観
296
Part 1 個々の法助動詞について
106.can
297
107.could
299
108.may
301
109.might
302
110.must
303
111.will
305
112.would
308
113.shall
310
114.should
311
115.その他の法助動詞
313
Part 2 法助動詞と法助動詞句の比較
116.can とbe able to(could とwas/were able to も含む)
315
117.must とhave to
317
118.will とbe going to
319
119.過去の習慣を表すwould,used to
320
Part3法助動詞(句)同士の相互関係
120.推論-肯定文
322
121.推論-否定文
323
122.推論-過去の肯定文
323
123.推論-過去の否定文
324
124.予想-肯定文
325
125.予想-否定文
325
126.依頼と許可
325
127.アドバイス
327
応用練習
328
10章 時制[助動詞②]
Part 1 時制
128.現在時制
338
129.過去時制
345
130.未来時制
349
Part 2 完了形と進行形
131.動詞の4つのタイプ
351
132.完了形
352
133.進行形
355
134.現在完了進行形
359
Part 3 それぞれの時制の比較
135.単純現在と現在進行形の違い
360
136.現在完了と現在完了進行形の違い
360
137.単純過去と現在完了の違い
361
138.単純過去と過去進行形の違い
363
139.単純過去と過去完了の違い
363
140.単純未来と未来完了形の違い
364
応用練習
366
11章 受動態[助動詞③]
141.S+V+O(第3文型)からの受身形
380
142.S+V+IO+DO(第4文型)からの受身形
382
143.S+V+O+C(第5文型)からの受身形
383
144.準動詞の受動態
386
145.感情を表す動詞からの形容詞
387
146.状態変化動詞(中間の態)
389
147.get +過去分詞
392
148.受身形のその他の注意
394
応用練習
397
12章 命令形[助動詞④]
149.命令形の一般的パターン
404
150.let を使った文
407
151.命令文の社会的機能
409
応用練習
410
13章 否定
152.単語レベルの否定
418
153.句レベルの否定
422
154.センテンスレベルの否定
422
155.全否定,部分否定,準否定など
427
応用練習
430
14章 前置詞
156.前置詞の概観
434
Part 1 各前置詞の用法
157.of
438
158.in
442
159.to
447
160.for
449
161.with
453
162.on
456
163.at
459
164.by
462
165.from
463
166.その他の前置詞
466
167.前置詞的に用いられる句
478
Part 2 前置詞同士の比較
168.2つの前置詞の相関関係
480
169.とる前置詞によって意味が微妙に異なる慣用句
483
Part 3 前置詞の省略
170.前置詞がオプショナルのケース
484
171.前置詞が必ず省略されるケース
486
応用練習
488
15章 準動詞
Part 1 分詞
172.分詞の形容詞用法
504
173.分詞の名詞的用法
510
174.分詞の動詞的用法
510
175.分詞の副詞的用法-分詞構文
511
Part 2 不定詞
176.不定詞の名詞的用法
515
177.不定詞の形容詞的用法
520
178.不定詞の副詞的用法
521
179.[be + to 不定詞]と[seem + to不定詞]
522
180.for ~ to 不定詞のパターン
524
181.不定詞の完了形
526
182.代不定詞と分割不定詞
527
183.S+V+O+ 原形不定詞
528
184.to 不定詞と原形不定詞が可能な場合
530
185.[目的語 +(原形)不定詞]vs.[ 目的語+ 現在分詞]
532
186.不定詞を使った慣用表現
533
Part 3 動名詞
187.動名詞の名詞的性質
534
188.動名詞の動詞的性質
536
189.動名詞の意味上の主語
537
190.動名詞と現在分詞との区別
538
191.動名詞と不定詞で,どちらを使うのかの選択のしかた
540
応用練習
544
16章 比較
192.原級(as ~ as ...)
556
193.比較級
561
194.最上級
567
195.省略パターンのまとめ
572
応用練習
575
17章 疑問文
Part 1 yes/no 疑問文(一般疑問文)
196.肯定疑問文
580
197.否定疑問文
583
198.付加疑問文
583
199.その他のyes/no 疑問文
586
200.yes/no 疑問文の社会的機能
588
Part 2 Wh- 疑問文(特殊疑問文)
201.疑問代名詞
589
202.疑問形容詞
592
203.疑問副詞
593
204.疑問詞のその他の注意点
595
205.疑問詞を使った慣用表現・有用表現
600
206.疑問詞のある疑問文の社会的機能
602
応用練習
606
18章 等位接続詞[接続詞①]
207.and
620
208.or とnor
625
209.but
628
210.for
630
211.その他の等位接続詞(接続副詞)
631
応用練習
635
19章 従位接続詞[接続詞②]
212.従位接続詞概観
642
Part 1 名詞節を導く従位接続詞
213.that
644
214.if とwhether
655
215.間接疑問文に使われる疑問詞
656
Part 2 形容詞節(関係詞節)を導く従位接続詞
216.形容詞節の概観
658
217.関係詞節の限定用法と非限定用法
662
218.関係代名詞
667
219.who
667
220.which
669
221.that
671
222.関係代名詞のオプショナルな省略
672
223.複合関係代名詞
674
224.その他の関係代名詞
676
225.関係形容詞(what,whose,whichなど)
677
226.関係副詞(where,when,why,how)
679
Part 3 副詞節を導く従位接続詞
227.副詞節の概観
683
228.時(when,after,before,as など)
683
229.目的(so that,in order that)
688
230.結果(so ~ that,such ~ that)
688
231.理由・原因(because,as,sinceなど)
689
232.譲歩(although とthough,even ifとeven though,while など)
692
233.場所(where)
695
234.様態(as,as if/though など)
696
235.条件文の概略
696
236.直説法の動詞のある条件文
697
237.仮定法の動詞のある条件文
699
238.条件文の直説法vs. 仮定法
701
239.if 節のない文でも‘条件’の意味が含まれているケース
703
240.if 節に相当する部分が意味的に含まれているケース
705
241.条件文や仮定法を含む慣用表現とその他の注意
706
242.条件文の社会的機能
709
243.従位節である副詞節内の省略のパターン
709
応用練習
714
索引
730

アイビーリーグ・イングリッシュによる習得メソッドについて

1. アイビーリーグ・イングリッシュとは

 アメリカの一流大学群(ハーバード大学,エール大学,コーネル大学,ダートマス大学など多くの大学)では,最難外国語(難度スケール 4 レベル中の4で,例えば英語母語者にとっての日本語など)の習得教育に大きな成果を上げています。英語は,私たち日本語母語者にとって最難外国語の一つで,私自身は日本の英語教育は生徒として経験し,米国の日本語教育は教師として関わりました。そして,その両者の習得の成果に大きな違いを知らされることになったのです。具体的に言えば,アメリカのそれらの大学では,わずか 3 年間ほどの履修で流暢な日本語をあやつれる学生が少なからず出てくる一方,日本の英語教育では,大学までの 8 年間を主要な教科として勉強しても,メジャーな大学の学生でさえ英語でのクラスディスカッションは全く不可能で,片言英語(ETS のオーラル運用能力スケールの 5 レベル中の何とゼロ)の範囲から逃れられていないのが厳しい現実です。

 アメリカのそれらの大学で使われている(少なからず高校でも使われている)日本語の教材は,英語母語者が本格的で自然な日本語の習得を試みる場合に出てくる問題点(文法上の問題点と自然な日本語を表現する上での問題点)にしっかりフォーカスされています。同様に本書も,日本語を母語とする学習者が英語の習得を試みる場合に障害となってくるポイント(難しいポイントはほぼ全て日本語と英語とのズレの部分なのです)にフォーカスし,それらの問題点を効率よく克服しつつ,自然で本格的な英語の習得ができるようにデザインされています。

2. アイビーリーグ・イングリッシュの特徴

A)英語習得前提の詳しい文法説明

 本書の特徴の第 1 点目は,日本語と英語は非常に言語的距離があり,英語の習得はやさしくはありませんが,それ相応のしっかりしたグラマーの説明(文型パターンのみならず,音声ルール,英語表現を「いつ」「どこで」「どう」適切に使うのかの言語社会上のルールも含む)があることです。グラマーのためのグラマーの説明ではなく,英語習得が目的であることを前提とし,効率的な習得を可能にするためのプラクティカルな説明です。

 多くの英語学習者はグラマーを‘やさしく’説明している英語教材を使う傾向にありますが,簡単な説明では高等学校の数学を加減乗除だけで理解を試みるようなもので,学習者は‘わかったようでわからない’霧の中にいるような状況に置かれ,かえってわからなくなってしまうものなのです。

 アメリカのそれらの大学や高校で使われている日本語の教材の文法の説明は,学習者により効率的に日本語を習得させることを目的としています。つまり,ターゲット言語習得に直接結びつく Pedagogical Grammar(教育文法) が使われていますが,その文法の説明は,日本の英語教育界で広く使われていて,英語習得には必ずしも直結していない Descriptive Grammar(記述文法)の本の文法の説明とはかなり質が異なります。本書は,米国で使われているその日本語の教材を踏襲して,英語をより効率的に習得させることを目的とした PedagogicalGrammar(教育文法)が使われています。

B)英語表現が豊富にバランスよく紹介されている

 第 2 点目に,本書には本格的な日常会話ができる英語表現(日常生活の中で使用頻度の高い語彙を使用し,口語のみならず文語も含めた)が豊富に収録されています。これらの例文を通して,日常のコミュニケーションに不可欠な文法・語法を理解し,英語の語感を養うことができます。

C)本書一冊で英語習得の全てをカバーしている

 第 3 点目に,センテンスパターン(文型)を理解し,練習することが重要ですが,本書ではこの 2 つの繰り返しができるようにデザインされています。最難外国語である英語のスキルの習得の極意は,ピアノやスポーツのスキルの習得同様,「繰り返し」です。前後左右の関連もない内容の少ないいろいろな教材を取り替えつつの勉強法では,なかなか「習得型」にはなり得ず,「紹介型」となりやすいのです。例えば,発音・イントネーション,単語,熟語,英会話表現,文型文法などは,それぞれの独立本を使って「発音のための発音」,「単語のための単語」,「英会話のための英会話」,「文法のための文法」などのように行なわないで,その大きなシステムの中で扱い,他のアスペクトと連動させて習得を目指していくのが実際の発音習得,英単語習得,英会話習得,英文法習得などには効率的・合理的です。その英語全体のシステムを本書は網羅しています。

D)アイビーリーグ・イングリッシュの勉強法はスピーキングが中心

  1. アイビーリーグ・イングリッシュではスピーキング中心に勉強を行います。そして,この方法はスピーキングのみならず他の全ての言語スキルもスムーズに向上させることができるのです。
  2. 本書での「話すこと中心の練習」では,自ら声に出して練習しますのでリスニングの練習にもなります。スピーキングの習得作業による,発音・イントネーションの練習を含めた,バラエティーに富む英語表現,文法パターンの習得練習を行わないで,受身的スキルであるリスニングの練習をするだけであれば,リスニングそのものにもすぐに限界がくるものです。微妙な発音・イントネーション,さまざまな英語表現・センテンスパターンに対して細かく意識がついていけないからです。自らが言える英語のリスニングは当然難しくはありません。
  3. しかも,スピーキングの習得作業はバラエティーある英語表現やセンテンスパターンを脳にインテイクしていくことですが,それはライティングの習得作業と全く同じなのです(英語のオーラルにて表現や説明がスムーズにできれば,その英語はそれ程困難なく書けるものです)。つまり,ライティングスキルの習得は,スピーキングスキルの習得レベルとパラレルに伸びていきます。
  4. さらに,‘音’によって慣れた英語は,リーディングのときにそのまま句や文として脳に飛び込んできますので,リーディング作業のスピードが格段に速くなります。逆に,オーラルスキルの前提のない英語のリーディングは,「暗号解き」になりやすく,英文解釈に時間がかかってしまう傾向にあります。

3. 「英語は英語で」の大きな落とし穴

 日本では今,英語圏への留学・出向,学校英語プログラムや企業英語プログラムへのネイティブの導入,そして膨大な数の英会話スクールの存在といったように,「英語は英語で」の勉強法が大流行です。しかし,「英語は英語で」ですので,勉強の焦点は英語と英語の関係になりますが,日本語と英語のズレが英語の習得を難しい,わかりにくいものにしているのです。英語で書かれた「英語は英語で」のテキストは最易外国語型で,日本語母語者の学習者にとっての重要ポイントがゴッソリ抜け落ちています。「英語をどう使っていいのかわからない」でいる場合,日本語母語者は必然的に自らの膨大な言語経験である「日本語の常識」を無意識に当てはめてしまいます。ですので,「英語は英語で」の学習方法では,一般常識とは逆に日本語的な英語から逃れ難い傾向があるのです。このことは,英語圏にいる日本人在住者の英語,日本在住の英語のネイティブの日本語を聞けば明らかです。彼らは,「究極の外国語習得環境」に住んでいるように感じられますが,実際にはあまり習得が起こらず非常に苦労しておられる方が圧倒的です。

4. 本書の習得対象言語はアメリカ英語

 本書の習得対象英語は,「アメリカ英語」です。イギリス英語でもインド英語でもなく,本書がアメリカ英語を選んでいる理由は,好むと好まざるとに関わらず,英語の世界の中でアメリカ英語が圧倒的な地位を占めているからです。ちょうど日本語の世界で,東京弁が圧倒的な地位を収めてしまっているように。習得言語対象をハッキリさせている理由は,そうしないと何でもありの,つまり必然的に日本語の影響の濃い日本英語になりやすいからです。現実には,日本英語は日本人以外には極めて通じ難い英語です。

習得プラクティスの方法

 本書は,英語の初級・中級・上級全てのレベルの学習者が使うことができるよ うにデザインされています(クラスセッティングにて本書を英語のテキストとして使 用する場合の英語教授法は,米原幸大著『米国の日本語教育に学ぶ新英語教育』〈大学 教育出版〉参照)。各章の中に練習して覚えていただきたい英語の語,句,センテ ンスが示してあり,各章末の‘応用練習’でさらに英語が紹介されています。こ れらの英語で,比較的難しいもの,使用頻度の少ないものは色の付いた文字では なく黒字で示されています。

  1. 初級レベルの学習者による練習では,各章の黒字の英語の語,句,センテ ンスと章末の応用練習の中の全ての語,句,センテンスは除きます。
  2. 中級レベルの学習者は,各章の語,句,センテンスと章末の応用練習の両 方はカバーしますが,それぞれの黒字のセンテンスは除きます。
  3. 上級レベルの学習者は,本書の全ての英語の語,句,センテンスをカバー することになっています。

 ですので,例えば中級と上級を経験する学習者の場合,まず中級で各章とその 応用練習の中の黒字の英語を除いた全ての英語の練習を行います。それが終わり 上級に進めば,中級で行なってきたものを復習することと同時に,新たに黒字の 英語の習得練習も行うことになります。

〈パターン①〉
  1. まずグラマーの項目を読みます。多くのグラマーの項目はお互い関連し合っていま すので,後々の関連事項のより深い理解のためにもなるべく細かい点に注意を払っ て読む必要があります。例文にもなるべく細かく注意を払いましょう。
  2. ‘習得プラクティス’(日本語の語・句・文に英語訳の付いているもの)で,日本語 だけ見て英語をクリエイト(英作)して口に出してみます。もしその英語表現が脳 にあれば言えるはずです。言えない表現は,スムーズに言えるようになるまで練習 します。
  3. 最後の仕上げとして,ネイティブのしゃべる英語の後に続いて(本書の英文を見な いで)その英語をリピートし,自然な発音・イントネーションやスピードになるま で練習します。
〈パターン②〉
  1. ‘習得プラクティス’で,日本語だけを見て英語をクリエイト(英作)して口に出してみます。そして言えない表現を繰り返し練習します。
  2. 文法パターンのわからない部分についてのみ,該当部分のグラマーの項目を読んで理解します。
  3. 最後の仕上げとして,ネイティブのしゃべる英語の後に続いて(本書の英文を見ないで)その英語をリピートし,自然な発音・イントネーションやスピードになるまで練習します。
【本書の音声について】 著者ホームページにて例文の音声データを無料で配信中です(2025 年 5 月 26 日現在)。
〈著者ホームページ〉https://www.ivyleague-english.com/
(※音声データの作成と提供は著者が行っております。語研ではお問い合わせにはお答えできませんので,予めご了承ください)

 この作業は,日本文からの英語の直訳ではなく,‘言いたい状況’が日本語で示してあって,その‘言いたい状況’(当然英語から見た日本語は,英語からの直訳ではなく意訳です)を英語で言ってみるという作業です(よって,モデルの英文以外の英語表現方法がある可能性はもちろんあります)。

 もう 1 点述べると,本書での英語をクリエイト(英作)する練習は‘1 日の生活で頭に浮かんだことを英語でしゃべる’という英語の達人と言われる人たちがよく使う練習方法に似ています。‘頭に浮かんだことを英語でしゃべる’方法も基本はアクティブに英語をクリエイトする練習です。ただし,この方法は作った英語表現が正しく自然であるのかどうかがわからず,間違いは間違いのままになるという大きな欠点があります。そして,語学習得で重要な定期的なフィードバックができないのも大きな欠点です。本書でのメソッドは,グラマーベースの間違いや弱点はグラマーの説明を読んでより深く理解し,その上での練習がいくらでもでき,しかも後日それをまたレビューできるので,効果的に弱点の克服ができるようになっています。

 英語をクリエイト(英作)する練習の目的は,不足のグラマーパターン,英語表現をどんどん炙り出して理解・練習・暗記で効率的に英語を脳に蓄えることにあります。英語力は,強いインプットとして脳の中にあるセンテンスパターン,自然な英語表現の量に比例します。インプットが弱い英語表現は,現地で英会話の場数を踏んでもなかなか口から出てこないものなのです。

主な記号・その他の意味

cf.
「比較・参考」(参考事項を示す)
( )
「オプショナル」(カッコ内の語を付けても付けなくてもよいケース)
「不自然な文」(一般には不自然に思われているが,全く使われないわけではないケース)
×
「間違いの文」
A ↔ B
「A と B は反意語同士」
A ≒ B
「A と B はほとんど同じ意味を表す」
A / B
「A または B」(A も B も相互に入れ替え可能で文が成り立つケース。必ずしも A と B が同じ意味を表すわけではない)
下線のある語(句)
「注意すべきポイント」
(A)3
「A の品詞の語(句)の数は上限3つまで」
(A)n
「A の品詞の語(句)の数は上限は原則なし」

米原幸大

  セントラルミズリー大学(University of Central Missouri)TESOL(英語教授法)修士課程卒業。サウスカロライナ大学(University of South Carolina)言語学博士課程中退。コーネル大学(Cornell University)客員講師,トゥルーマン大学(Truman State University)講師などを経て,現在,Jアプローチ推進協会主宰(http://www.ivyleague-english.com/)。
〈著書〉『米国の日本語教育に学ぶ新英語教育』(大学教育出版 〈単著〉2008.7),『【完全マスター】ナチュラル英会話教本』(語研 〈共著〉2010.11),『TOEFL® テスト完全対策&模試』(ジャパンタイムズ〈共著〉2010.11)『Jアプローチ:4技能時代を先取りする凄い英語学習法』(IBCパブリッシング〈共著〉2015.7)
〈論文〉『アメリカの日本語教育に学ぶ理想的なティームティーチング』(「英語教育」大修館書店2008.5)

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