はじめに
本書を手にした皆さんは、カッコ内の日本語の意味になるように次の英文の空所に英単語をひとつ入れてみてください。
- You don't ( ). (まさか)
- She ( ) me up. (彼女にすっぽかされたんだ)
この2つの空所にすぐに適切な単語を入れられる人はかなりの上級者です。では、TIME誌などに出てくる難解な単語を入れるのでしょうか。答えはNo.です。1には“say”、2には“stood”を入れればよいのです。
本書は、このように、中学(一部は高校)で学ぶ基本的な英単語のうち、英語のネイティブ・スピーカー同士の会話で頻繁に使われる基本100語を選び、それらを用いた、日本人学習者には意外と知られていない会話表現300を身につける口語英語表現集です。対象としては大学生、一般社会人(入門から初級レベル)の方々です。実用英語技能検定で言えば、準2級以上のレベルの学習者ですが、準1級レベルの学習者にも基本語の使い方を整理し、やさしい単語で、短く話すことで、リズミカルに会話を進める手助けとなるはずです。
本書で紹介する会話フレーズ300は、拙著『ネイティブが話す【英単語・イディオム・決まり文句】』『ネイティブがよく使う【英単語・イディオム・決まり文句】』(ともに語研刊)に未収録の重要表現を中心に選びました。いずれも、米国映画のダイアログをデータ化した口語英語表現データベースに頻繁に登場するものです。
本書では、英語基本キーワード100語について3つの頻出会話表現を見開きで紹介しています。すべての表現に簡潔で覚えやすいダイアログとともに、それぞれの使い方についてわかりやすい解説を付けました。関連表現の紹介を含め、使用上の注意点としてこれだけは知っておいていただきたい情報をまとめています。
本書で紹介する基本キーワード100語はいずれも中学レベルの基本中の基本語であり、だれでも知っているような単語ばかりです。
しかし、見たり聞いたりして意味が理解できる語(「受信語彙」といいます)だからといって、その使い方を正しく理解し、英語を話したり書いたりするときに、状況に応じて適切に使えるとは限りません。毎日、機械的に単語を暗記し続けて意味はわかるようになっても、必ずしも使えるようにはならないのです。
英語の実力が付けば付くほど、日常で頻繁に用いられる基本語がどれほど多様に使われ、奥深い意味をもっているかということに驚かされます。自然な英語、すなわち「ネイティブ英語」を目指すなら、基本語を甘く見てはいけません。豊富な語彙も英語力の重要な要素ですが、簡単な単語を何通りにも自由に使える単語力(「運用語彙」といいます)も同様に大切なのです。
私は、ニュース英語の理解や各種英語資格試験対策でボキャビルの重要性を強調してきましたが、これからは単語の知識の量だけではなく、質にも目を向けてください。量と質が両立してこそ豊かな単語力と言えるのです。本書で基本語の意外な使われ方を理解し、自分でも使いこなせる会話表現としてぜひ身につけてください。すべてのフレーズを声に出して覚え、付属CDを聞きながらダイアログも一緒に覚えてしまいましょう。本書を利用して、さらに豊かな口語英語の表現力を獲得されるよう願っております。
本書は、ダイアログ作成の段階でハワイ在住のJemul Nedさんを始め多くの英語のネイティブ・スピーカーにインフォーマントとして助言をいただき、さらに米国、オーストラリア、ニュージーランドの日本人留学生にも現地調査の協力を得ました。最終的な英文のチェックは、長年日本の大学で英語を教えておられるRichard Kizziar先生(米国)とLorne Kirkwold先生(カナダ)に細部まで点検していただきました。さらに、本書をよりユーザーフレンドリーなものにするために、原稿の段階でモニターとして、米国に国費留学中の長尾裕之君や、ミュージシャンの藤井聖司さんに原稿を読んでいただき、細やかな指摘をしてもらいました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。また、いつもながら(株)語研の奥村民夫氏にはキーワードの選択、ダイアログや解説にすいて的確で有用な助言を賜り、感謝しております。
緑丘より日本海を眺めて
小林敏彦