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はじめに
本書は,630 の英会話の定型表現を目的別,状況別にシンプルな対話例(adjacency pair)とともに紹介します。
一般に英語学習者は,レベルアップして造文能力(linguistic creativity)が高まり,話す英語に自信が出てくると,単に通じる英語(communicativeEnglish)ではなく,自然な英語(natural English)を習得したいと思うようになります。英語の発話能力は,communicativity(伝達能力),fluency(流暢さ),accuracy(正確さ),naturalness(自然さ)を基準にして以下のように整理できます:
伝達能力 | 流暢さ | 正確さ | 自然さ | |
超級(Superior) | ○ | ○ | ○ | ○ |
上級(Advanced) | ○ | ○ | ○ | × |
中級(Intermediate) | ○ | ○ | × | × |
初級(Novice) | ○ | × | × | × |
初級者は,ブロークンではあっても何とか言いたいことが伝えられる(communicative)レベルにあります。しかし,たどたどしくて流暢(fluent)でなく,発音,語彙,文法が正確(accurate)でなく,ネイティブスピーカーの耳には自然(natural)に聞こえません。中級の学習者は,自分の意思をある程度とぎれなくしゃべることができますが,正確さに欠け,自然さも感じられません。上級者は,話す内容もクリアで流暢で正確に話し,なんとか意思を伝えようとたくさんしゃべりますが,意味は通じてもネイティブならそうは言わない,不自然な英語を含んでいます。超級のレベルに達した学習者は,4 つのすべての基準を満たします。それぞれの発話の特徴から,初級者を“word person”,中級者を“phrase person”,上級者を“sentence person”,超級者を“paragraph person”と呼ぶこともあります。
自分の英語力に自然さを加味したレベルまで,すなわち教養ある英語のネイティブスピーカーの英語に近づきたいというのはごく自然な願望ではないでしょうか。外国滞在経験のない英語学習者の中にも話す英語はネイティブスピーカーに近い“near-native”のレベルに達する人もいます。その可能性があるのは,常に高い目標を掲げ,「ネイティブスピーカーならどう言うか」という意識を常に持っている学習者です。
「定型表現」と聞くと初級の英語を連想するかもしれませんが,ハイレベルな学習者やそれを目指す学習者は,さまざまな定型表現を覚え,より頻度の高い自然な言い回しにこだわるものです。その意味において,本書は初級者から上級者に至るまで,あらゆるレベルの学習者に対応できる教材であると考えております。
拙著のネイティブシリーズは,英語の造文能力がある一定のレベル(英検2 級以上)に達した英語学習者に,より自然な英語をタイミングよく用いて,英会話力に「自然さ」という要素を加えることを狙いとしています。本書も,読んで[聞いて]理解するだけでなく,積極的に覚えて,タイミングよく使うようにしてください。
本書は,原稿の段階で米国ミューレンバーグ大学留学中の伊藤沙織さんの協力を得て,複数の英語ネイティブスピーカーにインフォーマントとして参加してもらい,選んだ定型表現と対話文について,頻度と自然さについて詳細なフィードバックを得ました。さらに,最終原稿の段階では,小樽商科大学言語センター教授で言語学博士のShawn Clankie 先生(米国ミズーリ州出身)に詳細なネイティブチェックとコメントをいただきました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。最後に,いつもながら本書の構成と使用データの選出について助言をいただいた(株)語研の奥村民夫氏に心よりお礼を申し上げます。
小林敏彦
本書の特徴と活用法
著者がこれまでの英語修行の過程で蓄積してきた私家版コーパス,洋画のデータベース,米国国営放送VOA(Voice of America)などのニュース番組のインタビューや対談でよく使われる会話フレーズから630 項目を厳選しました。 掲載されたフレーズのほとんどが完全なセンテンスの定型表現ですが,センテンスの一部の入れ替えが多いと判断されるものは,イデイオムのような形で紹介されていたり,副詞句も若干含まれます。
本書では,日常の英語会話に役立つフレーズが,若干の例外を除いて対話の最小単位である一往復の「隣接ペア」(adjacency pair)で紹介されています。対話文ごと覚えてしまえば,発話の段階で再生しやすくなり,正しい使い方が理解できます。
何をどのように話すかを決定する要素として,本書ではフレーズを以下の7 つのパターンに分類し,それぞれのパターン別にユニットを形成しています。各ユニットは30 の機能・概念・場面別のページに分類され,各ページには3 つのフレーズが対話文とともに紹介されています。すなわち,ひとつの機能・概念・場面に対して,より細かなニュアンスが表現できる豊かな英会話力を身につけられるように3 通りの言い方が紹介されています。
対話の相手とのやりとりを機能・概念・場面別にパターン化して覚えることにより,場面や人間関係の分類の枠を超えて応用が効き,多くの場面,状況に対応できるようになります。
パターン(patterns)
- 声をかける(日常のあいさつや感謝の表明)
- 質問と回答(情報交換を目的とする質疑応答)
- 伝達と反応(情報の提供や報告とそれに対する驚き,怒り,喜びなど)
- 意見を伝える(主張,提案とそれに対する反応)
- 誘う・申し出る(何かの誘い,好意の申し出と返答)
- 依頼・要求(依頼,要求,指示,許可願い,忠告とそれに対する返答)
- 問題と解決(問題の提起,悩み,不平,苦言,抗議とそれに対する解決策や謝罪)
場面(situations)
- 屋外(通り,公園,観光名所,山川海,海岸,自然公園など)
- 交通機関(航空機,バス,電車,地下鉄や空港,駅,待合室など)
- 公共施設(役所,ホテル,レストランなど)
- 住宅(自宅,寮,アパート,ホームステイ先などのプライベート空間)
- 会社や学校(オフィス,会議室,キャンパス,教室,寮など)
- 娯楽施設(店鋪,映画館,水族館,博物館,美術館,スポーツ施設,遊園地など)
- 電話,掲示板,チャット(姿が見えない相手との意思疎通)
人間関係(human relations)
- 肉親(肉親,配偶者,恋人,親友)
- 顔見知り(近所の人,同じ施設や場所でよく会う人,友人,クラスメート,同僚)
- 交渉相手(商談相手,取引先の人など)
- 先生(学校の教師,スポーツのコーチや監督,習い事の講師・師匠,医者,歯医者)
- 通行人や居合わせた人(通行人,近づいてきた人,何かの参加者,店の他の客)
- 公的サービス従事者(警官,守衛,役人,駅員,消防士など)
- 接客者(店員,受付,添乗員,運転手,客室乗務員,配達人)
本書にはMP3 形式の音声データ(CD-ROM)が付属されています。実際の会話を音として記憶し,いつでも口をついて出るようにするために徹底的に聞いてください。「目は口ほどにものを言う」と言われますが,実は私たちの発話機能は口だけでなく,耳によっても制御されています。「話す第一歩は聞くことから」というのは真実です。
リスニング力は,筋肉と同じで,使わなければ徐々に衰えていきます。音声を聞いて,識別するという感覚的な発達に加えて,長いインプットに耐えられる注意力と記憶力という認知力の発達も求められます。リスニングのための学習は肉体改造の一部と位置づけ,筋力トレーニングのように毎日コツコツと英語の音を聞き取る練習を続け,新たな感覚器官を頭の中に作り上げようとする気構えで頑張りましょう。
以下に紹介する音声を活用したリスニング・トレーニングを日ごろからぜひ実践してください。また,音読かシャドウイングは毎日30 分は欠かさず行うようにしてください。
1)Listening & Reading(本文に目を通しながら英語を聞く)
音声を聞きながら会話文に目を通す方法です。数度聞いてから本を開く方法と,会話文を見てから聞く方法とがあります。必要に応じて会話文を確認しますが,和訳は伏せておくほうがよいでしょう。
2)Listening & Reading Aloud(英語を聞いた後で音読)
会話文に目を通し,音声に続いて繰り返し発音してみる方法です。会話文を見たうえで,正確な発音やイントネーションを学ぶために有効な方法です。これには,音声を1 ターンずつ止めて繰り返す方法と,それ以上の適当な長さのところで止めて繰り返す方法があります。
3)Listening & Repeating(英語を聞いた後で繰り返す)
会話文を見ないで音声の後に続いて繰り返し発音してみる方法です。会話文をひととおり見てから行う方法と,いきなり耳から入って後で文字を確認する方法があります。英語の実力のある方(実用英検2 級以上)はぜひ後者の方法を試してみてください。
4)Listening & Dictation(英語を聞いた後で書き取る)
会話文を見ないで英文を聞き,適当な長さのところで音声を止め,聞き取った部分を書き取る方法です。これは聞き取れない部分を何度も聞き,根気よく続けることが大切です。2,3 回聞いてもわからないからといって会話文を見るのではなく,最低10 回は聞いてから確認するようにしてください。たとえ1 センテンスや1 フレーズ,1 単語であっても妥協せずに,納得がいくまで1 週間ぐらい聞き続けてみてはどうでしょうか。
5)Shadowing(英語を聞き,同時に繰り返す)
会話文の語句が聞こえた直後,またはほぼ同時に声を出し繰り返す方法です。慣れないうちは,声を出さずに口を動かしたり,ささやく程度(whispering)でもかまいません。また,ヘッドフォンを使用すれば自分の声がじゃまにならなくなりますが,訓練が進むにつれてヘッドフォンなしでもできるようになります。会話文を見てから言っても,見る前に言っても,どちらでもかまいません。会話ごとに繰り返す方法と,すべての会話文を見てから,再生のままにして数十分続けることもできます。これは同時通訳者の養成法として世界中で行われている方法で,リスニング力を高め,英文がチャンク(かたまり)として記憶に定着し,発音やイントネーションが正確かつ滑らかになる方法として一般の語学学習者もぜひ活用すべき訓練法です。神経言語学(neurolinguistics)の研究からもこの訓練の効用は証明されており,訓練を重ねていけば,実際の対話で相手の発話に対して即答することが容易になると考えられています。
6)Focused Listening(特定の情報を聞き取る)
特定の情報に焦点を合わせて聞き取る方法です。例えば「動詞」「形容詞」などの品詞,「数字」「大きさを表す語句」などの意味,種類に応じて聞き取る焦点をまず決め,それから該当する語句を書き出します。会話文を一度聞いて,これを1 ラウンドとし,1 ラウンド聞くたびに特定情報を変えたり,必要に応じて同じ特定情報を聞き取るために数ラウンド聞きます。友人と一緒に競技するような形で行うと効果的です。
7)Overlearning(過剰学習:音声を再生のままにして聞き流す)
以上の段階を経たら,今度は過剰学習のために部屋の中で再生させたままにしたり,通勤・通学のときに,小型プレーヤーで聞き流すことをお勧めします。これは一度理解した英文の語彙,構文,発音,イントネーションを無意識に定着させるのが狙いです。特に意識的に聞く必要はありません。BGM のように聞いてください。この方法は,特にイントネーションの習得に効果があります。
英語は暇な時間に学ぶだけで上達するほど甘くはありません。ひたすら必死に,四六時中頭の中を英語で充満させるようにしましょう。甘い宣伝文句に惑わされず,ハイレベルの英語習得を目指すプロの英語学習者になっていただきたいと思います。
異文化間コミュニケーション(intercultural communication)で通用する英語の運用能力には,「英会話」という言葉から連想されるような限られた言語技能ではなく,リスニング,スピーキング,リーディング,ライティングの4 技能をバランスよく習得する必要があります。特にインターネットの時代になって,作文力がとても重要なスキルであると認識されるようになりました。
また,英検やTOEIC,TOEFL の対策に限定した学習だけではなく,どんな目的,状況にも対応できる真の実力を身につけることが大切であり,目標のハードルは高めに設定するほうがよいでしょう。それぞれの技能習得について母語の習得順(耳→口→目→手)に従って以下のようにまとめてみましたので,参考にしてください。
1 | メディア(media),洋画(movie),洋楽(music)の3 つのMを活用する。 | |
2 | 聞いた素材のスクリプトを入手する。 | |
3 | 毎日1 時間以上は続けて聞く。 | |
4 | 聞き取れた部分をまねして声に出したり,全体をシャドウイングする。 | |
5 | 一定の長さを何度も再生してディクテーションする。 | |
6 | 毎日20 分間は同じ英文を繰り返し音読する。 | |
7 | 音質のきれいなものばかりでなく,ノイズの入った素材にも慣れる。 |
1 | ネイティブや英語好きな人と交流し,電話で話す。 | |
2 | さまざまな話題について,自分の意見をまとめて用意しておく。 | |
3 | 周囲から変に思われない程度に,英語でひとりごとを言ってみる。 | |
4 | 発音とイントネーションに気を使いすぎない。 | |
5 | 簡単な語彙と構文で相手にわかりやすく話すように心がける。 | |
6 | 使える語彙や適切な定型表現を覚えて,タイミングよく使えるようにする。 | |
7 | 英語の持ち歌(repertoire)を持つ。 |
1 | 日本の三大新聞の電子版とその英訳を読み比べる。 | |
2 | 興味のある内容のものから読む。 | |
3 | 訳さず読み進め,視線を左に戻さない。 | |
4 | 英英辞典機能や例文の付いた電子辞書を活用する。 | |
5 | すぐには辞書や参考書に手を出さない。 | |
6 | 紙製の辞書を塗りつぶし,例文と日付を付け加える。 | |
7 | 分野別のボキャビルを並行して行う。 |
1 | 毎日英文日記や日誌をつける。 | |
2 | 文通,英文チャット,BBS(掲示板)などを頻繁に活用する。 | |
3 | 英字新聞や雑誌に定期的に投書する。 | |
4 | 何かを訳すのではなく,自分のメッセージを直接英文で表現する。 | |
5 | よい英文は模倣して英借文し,ノートやファイルに整理する。 | |
6 | 書いた英文を音読しながら推敲する。 | |
7 | 完成した英文は他人に添削してもらい,修正箇所をよく観察して保存する。 |
MP3 CD の使い方
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1988年、小樽商科大学商学部経営法学コース卒(大谷良雄ゼミ:国際法専攻)、ハワイ大学マノア校(UHM)大学院英語教育研究科修了(MA in ESL)、ハワイ州会議通訳者免状(日英・英日/同時・逐次)4種全取得。ハワイ大学日本語講師を経て、現在、国立大学法人小樽商会大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻(専門職大学院ビジネススクール、OBS: Otaru Business School)教授。3M(Media / Movie / Music)を活用した「わかりやすく(Clear)、おもしろく(Interesting)、ためになる(Practical)授業」を心がけている。
主要著書に、『ニュース英語パワーボキャビル4000語』『ニュース英語究極単語10000』『3文型で広がる 日常英会話ネイティブの公式』『ネイティブがよく使う英会話表現ランキング』(以上、語研刊)、『外国人の先生と話そう』(大修館書店刊)、『日本人から見たアメリカ人の不思議な行動パターン』『アメリカ人から見た日本人の不思議な行動パターン』(以上、三修社刊)、『英語リスニング教材開発の理論と実践』『すべての英語教師・学習者に知ってもらいたい口語英文法の実態』『商大生のためのビジネス英語101』(小樽商科大学出版会)、主要論文に、 “Native and Non-native Reactions to ESL Compositions”(TESOL Quaterly, vol.26, No.1, Spring 1992)および “The Benefits of the CEG Typology Framework for Learners, Teachers, Researchers, and Textbook Writers”(2014年3月 映画英語教育研究第19号、第4回ATEM優秀論文賞受賞)など100点を超える。
趣味:教材開発、筋トレ、ウォーキング、名刹探訪、洋画・海外TVドラマ鑑賞。尊敬する人:真言密教開祖弘法大師空海